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安積典子
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基礎科学(教科の基礎、発展的学習)
教材の形式
実験・実習, 授業のヒント, トピックス、発展的学習
研修、講座、授業
教員研修(小中高) 科学クラブなど(小中高)
教科、科目

ポリスチレンのリサイクル

 ほとんどのプラスチックは、石油が原料である。したがって、資源保護のためにリユース、リサイクルに社会全体で取り組んでいく必要がある。平成24年度より、中学校理科1年でプラスチックについて1時間の授業を実施することが、指導要領で定められている(1)。本研修では、われわれの生活に身近な素材である発泡スチロールを取り上げ、プラスチックのリサイクルについて考えていく。

 2002年に全国の熱焼却施設を高温炉に切り替えることが義務付けられ、プラスチックごみをダイオキシンの発生なしに、安全に焼却処分できるようになった。現在では、プラスチックごみは埋め立てずに燃料として発電などに利用するか、または原料として再利用するよう指導されている(2、3、4)。

                          ポリスチレン

発泡スチロールは直径1mmほどのポリスチレンビーズにブタンなどの発泡剤を吸収させ、型に入れて加熱し、発泡・成型させて作る。1950年にドイツで開発され、日本では1959年より製造が始まった。特徴的な外観・質感を有するため、分別が容易であり、回収率の高いプラスチック素材である。また原料のポリスチレンは加熱等により高分子鎖が切断されにくいため、原料としての再利用が容易である。日本における発泡スチロールのリサイクル率は、材料として再利用するマテリアルリサイクルと、燃料として用いるサーマルリサイクルを合わせて88.0%(2010年、JEPSA発泡スチロール協会調査)に達している(5、6)。

 

発泡スチロールやポリスチレンはポリエチレンやPETなどに比べて、色々な有機溶媒に溶解しやすい。ベンゼン、トルエン、アセトンなどの他、エゴマ・シソなど一部の植物油や、柑橘の皮から採れる芳香精油成分リモネンにも溶解することが知られている。発泡スチロールはその体積の9割以上が空気であり、溶解してポリスチレンになると大幅に体積が減る。発泡スチロールを回集車のタンクの溶剤に溶かしながら集め、原料として再利用するシステムも企業化されている(7、8、9)。

 

実験1.発泡スチロールの減容とポリスチレンの回収

1)発泡スチロール約100㎤(2.0~2.5g)を小さく切って、50mlねじ口試験管に入れる。押し込みながら次々に発泡スチロールを入れ、完全に溶かす(①~③)。

2)1)の溶液から水蒸気蒸留法でリモネンを分離する(④~⑤)。リモネン5gを完全に分離するのにおよそ40分、溜液150mlほどを要する。

             

① 発泡スチロール100㎤(2.0~2.5g)をリモネン5gに溶かす。      ② 使用した50mlねじ口試験管(パッキン付キャップ) マルエムNX-50 

  

              

③ 発泡スチロールはリモネンに非常に良く溶ける。              ④ ねじ口試験管に合わせたジョイント。通常のフラスコとガラス管で充分。

 

⑤ 水蒸気蒸留装置。

 

3)溜液からリモネンを回収し、回収率を計算する。瓶に残ったポリスチレンは乾燥させ、質量を測定し、元の発泡スチロールと比較する。

 

実験2.ポリスチレンの発泡

1)実験1で回収したポリスチレン(⑥)を細かく切って、ねじ口試験管に入れる(⑦)。

                  

⑥ 回収したポリスチレン 体積が大幅に減っています。                ⑦ なるべく細かくハサミで切るのがコツ。

 

2)カセットコンロのボンベの先端をハサミの刃などで押し、中味の液化ブタンを試験管に少量注ぎ込み、すばやくパッキン付きキャップを閉める。ブタンは最初激しく沸騰するが、すぐに飽和蒸気圧に達して沸騰が止まる火気厳禁!!ドラフトの中で行うか、または換気扇を回しつつ、実験室のドアを開けておくこと)。

3)2)の試験管を軍手など布の袋に入れ、湯を張った保温容器(⑧)に入れ、55~60℃で約30分放置し、ポリスチレンにブタンを加圧吸収させる瓶を直火で加熱してはいけない!!瓶の中のブタンの蒸気圧は約5~7気圧になっている。

⑧ 保温容器は廃物を利用。直接湯に浸けずに金網の上などに試験管をおきましょう。

 

4)瓶を静かに取り出し、冷ましてからゆっくりフタを開け、ポリスチレンを取り出す。ブタンを吸収する前との状態の変化を観察する。

ブタンの蒸気圧 東京理科大学 大江修造教授のWebsaite「蒸留・蒸気圧・気液平衡・物性推算」より転載  http://s-ohe.com/vp_data.htm

 

5)籠状の小さな金網の中に、4)のポリスチレン片を適量入れ(⑨)、沸騰した湯に浸ける(⑩)。ポリスチレン中に吸収されたブタンが膨張し、ポリスチレンが発泡する。出来上がった発泡スチロール塊(⑪)の体積と、もとの体積を比べてみる。

  
⑨                                  ⑩                                  ⑪

 

発展

1)オレンジ等の柑橘の皮を、なるべく白い部分を含まないように剥き、少量の水を加えてミキサーで粉砕し、リモネンを水蒸気蒸留で抽出する。実験条件にもよるが、皮をミキサーで粉砕すると高収率でリモネンが得られる。溜液より得られた精油の成分は9割以上リモネンである(NMRスペクトル測定より)。抽出したリモネンを、上記のようなポリスチレンの回収実験に用いてもよい。

 

2)教科書などではポリスチレンに、ブタンの代わりにペンタンを浸透させ、発泡実験を行っている。ペンタンは常温で液体で、またブタンに比べて引火性が低いため、安全に取り扱うことが出来る。しかしペンタンを充分浸透させるには数時間~数日(温度や試料の形態による)かかる。工業的にはブタンを加圧吸収させるのが一般的である(6)。

 

3)吸収されたブタンやペンタンは、すぐに抜けずにポリスチレン中にとどまる。発泡の様子を日を置いて経過観察しても面白い。実験で作った試料では数日間でブタンやペンタンが抜けていくが、工業製品としてはブタンやペンタンを吸収させたポリスチレンペレットが、発泡スチロールの原料として容器メーカー等に出荷されている。適正な温度環境下で、倉庫保存も可能である(10)。

 

 

ポリスチレンの安全性について

ポリスチレンの中には、未反応のスチレンモノマー、ダイマー、トリマーがわずかに残存している。ポリスチレン製の食品容器を用いた場合、その一部が食品中に溶出する(11、12,13、14)。溶出したモノマー、ダイマー、トリマーの安全性について、以下に簡単に記す。

スチレンモノマー:                                                                 

WHOは、スチレンモノマーの耐容一日摂取量(TDI)を0.0077mg/Kg/dayとしている。この数値は、体重50Kgの人が生涯にわたり毎日1mgを摂取しても健康に影響がないことを示す。ポリスチレン食器から溶出するスチレンモノマーにより健康被害が生じる可能性は、この値から考えてほぼない(5)。

 国際がん研究機構(IARC)は2002年の評価においてスチレンを「発がん性がある可能性がある物質(カテゴリー2B)」に分類しているが、国際化学物質安全性計画(IPCS)は、2002年以降に発表されたマウスと人の発がんメカニズムの差異に関する研究結果に基づいて、スチレンは発がん性の証拠がないと評価した。さらに、EUで最近実施したリスクアセスメント報告書(2007年12月公表)では、「スチレンは発がん性物質に該当しない」と評価している(5)。

スチレンダイマー・トリマー:

環境ホルモン問題が社会的話題となるきっかけとなったコルボーンらの著書『奪われし未来』(原題”Our Stolen Future"、1997)の中で、スチレンダイマー・トリマーが「環境ホルモンの疑いのある物質」として取り上げられた。その後環境庁が策定した「SPEED’98」の中の、環境ホルモン作用が疑われる物質67物質にも、スチレンダイマー・トリマーがリストアップされた。さらにこのリストを根拠として、ポリスチレン食品容器から溶出するスチレンダイマー・トリマーの安全性がマスコミで大きく取り上げられた。その後、ポリスチレンからの溶出状況の確認や、溶出物についての内外の研究機関で安全性確認試験の結果、人の健康に影響を与えないことが確認された。関係省庁による検討でも問題ないと評価され、2000年10月には「SPEED’98」のリストからスチレンダイマー・トリマーは削除された(5、15)。

発泡ポリスチレンの、ポリスチレンのリサイクルの他の方法としては、加熱による溶融、減容がある(16)。熱溶融によるリサイクルは、溶媒分離のエネルギーコストがかからない利点がある。プラスチックの高温処理に対する社会の過剰な警戒心が薄らぎつつある中、エネルギーコストのより低い熱溶融によるリサイクルの割合が、今後増えていくと予想される。いずれにしても今回の実験を通して分かるように、リサイクルにも相当のエネルギーが必要である。プラスチックにしろガラス、金属にしろ、分別してリサイクルさえすればエネルギー、環境問題が解決すると言うものではない。産業や生活の場においてエネルギー、資源の節約を真に目指すためには、リサイクルよりリユースに優先的に取り組むことが重要である。

 

参考文献、サイト

1.『調べて分かるプラスチック』(中学校理科のための教材)

協力:日本プラスチック工業連盟  社団法人 プラスチック処理促進協会021105213

塩ビ工業・環境協会  塩化ビニル環境対策協議会 大日本図書

(ダウンロード版:日本プラスチック工業連盟ウェブサイトより)

2.  ダイオキシン類対策特別措置法 平成11年法律第105号

(最終改正:平成二三年八月三〇日)  法令データ提供システム (総務省)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO105.html

3.「廃プラスチック「焼却派」優勢に」 朝日新聞 2001年2月26日

  http://www.jplife.co.jp/recycle/famitec/dioxin/media/media/san09.htm

4.「廃プラ」焼却処分でゴミ出しが一変?」 読売ウィークリー 2008年1月20日号

  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw08012001.htm

5.日本スチレン工業会 http://www.jsia.jp/index.html

6.発泡ポリスチレン協会 http://www.jepsa.jp/index.html

7.有限会社寿総業のページ

(リモネンを用いた発泡スチロールリサイクルを行っている)http://www.kotobuki-sougyo.co.jp/business/1-01.html

8.発泡スチロール減容溶液エコソルブ

http://www.tech-jam.com/items/kn3163805.phtml

9.発泡スチロール溶解減容車 

新明和工業株式会社(特装車メーカー)http://www.shinmaywa.co.jp/truck/products/environment/e_7.htm

10.倉庫に保管中の発泡性ポリスチレンビーズより放出された可燃性ガスの爆発と倉庫火災

    畑村創造光学研究所ウェブサイト 失敗知識データベースより

http://www.sozogaku.com/fkd/cf/CC0200111.html

11.中田 他 分析化学 vol.49, No.10, (2000))

12.丹 他    食品衛生学雑誌 vol.19  No.2(1978)

13.「ポリスチレン製品中のスチレンダイマー及びトリマーの分析」
河村他 食品衛生学雑誌 vol.39、199-205 (1998)

14.「スチレン容器から即席食品へのスチレンダイマー及びトリマーの移行」
河村他 食品栄佐医学雑誌 vol.39、390-398 (1998)

15.平成12年度第1回内分泌攪乱化学物質問題検討会 資料

http://www.env.go.jp/chemi/end/kento1201.html

16.株式会社エフピコ(食品トレーの大手リサイクル業者)の広報ページhttp://www.fpco.jp/environment/pamphlet.html